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”バーチャルAD/HD”体験記

 奈良での公開講座で、”バーチャルAD/HD”という機器が紹介されていました。
 コンサータの発売元である製薬会社、ヤンセンファーマ社が開発したもので、ヘッドフォンとモニター(3Dメガネの親玉みたいな機械。昔任天堂で出ていたゲーム機にちょっと似てるの)を装着して、ADHD児の見たり聞いたりしている世界を疑似体験するというもの。
 11/16現在まだ一般には公開されておらず、12/4に記者発表をするらしいのですが、今回ヤンセン社の厚意で希望者は体験できるとのこと。当然、これはやってみなくちゃでしょー、ということで”装着体験”してみましたよ。
 本物のAD/HD者が今さら”疑似体験”もへったくれもないものだと思うけど、これが今後啓発活動などに用いられるとのことなので、さてどんなふうに”啓発”してくれるのかと興味津々、というか切実な問題ですからね。

 設定は、AD/HDを持つ小学生の男の子になって、家でゲームに夢中になって叱られたり、野球の練習に行く途中で衝動的に行動しては危険な目に遭ったり、意識があちこちに逸れては次々と行動が移り変わった挙げ句、道ばたに野球道具を置きっぱなしにしたままで行ってしまい、おまけに遅刻してコーチにも叱られる、というもの。
 モニターは頭を動かすと少し視点が動かせるようになっているけど、基本的にはストーリーに従って場面が切り替わっていき、子どもの視点がぱっと逸れて他に意識が行ってしまう様子を表現していました。ヘッドフォンから聞こえてくる音は、ゲームに夢中になっている時はすぐ傍でイライラしながら急かしているお母さんの声が遠くに聞こえて、ほとんどそちらには意識が向きません。そうかと言えば、他のところから聞こえてきた音に突然気を取られてしまい、今やっていることを忘れてしまったり…。確かにありそうなシチュエーションです(というか、よくあります)。

 率直な感想としては、当たり前ですが「疑似体験はあくまで”疑似”体験に過ぎないのだなあ」ということです。定型発達の人がどういうふうに感じるかはちゃんと聞いてみないとわかりませんが、私にとってはあちこちに意識が逸れるのも、突然飛び込んできた刺激に注意が向いて次々に行動が移り変わるのも、逆に何かに夢中になっていると他のことにまったく意識が切り替わらないのも、子どもの頃から当たり前にあったことばかり。
 ちなみに、この装置では視覚と聴覚の”体験”しかできませんが、実際の生活の中ではたとえば”気配”を感じたり、においや温度、空気の流れ、その他さまざまな感覚が全てバラバラに刺激を拾ってしまうので、頭の中はもっと忙しいのです。

 あくまでも私の場合、視野内に存在する無数の刺激自体がすでにごちゃごちゃした状態で入ってくるし、音についても耳が勝手にどんどん拾ってしまう感じで、そこから必要な声や音を聞き分けるのはかなりの意識的な努力が必要です。そこで”見えているのに見ていない””聞こえているのに聞いていない”状態が恒常的に生まれるわけですね。
 そして前述の通り、実際の生活では他の知覚で感じ取れる刺激は無数にあり、それらが重要度に関係なく勝手に入ってくるのですから、ただ”その場所にいる”だけで常に刺激の渦に放り込まれているようなものです。その中から”今、自分が意識を向けなければならない刺激”を抽出してそこに意識の焦点を向ける(選択的注意)のは大変エネルギーを必要とすることなのです。

 正直なところ「こんなものじゃないんだけどなぁ」というのが私の感じたことですが、他に体験した人たち(たぶん定型発達の方々)は、口々に「ああ、こんなふうに見えているのねえ」「頭ではわかっていたつもりだけど、これは大変だわ」などと言っていたので、ある意味”啓発的な役割”は果たせるものかもしれません。
 ヤンセン社の人の説明によれば「AD/HD症状が中程度の子どもを想定して作った」とのことでしたが、中程度であれくらいだったら私は一体どんだけ中核症状がシビアだったんだろう?と思ってしまいました。

 12/4の”お披露目”後は、さまざまな機会にプレゼンテーションをしていくとのことでしたが、もしこの装置で”疑似体験”をする方がおられたら、ぜひとも「実際にはこれに嗅覚や触覚などが加わるんだなあ」とか「こんなにまとまった形で刺激が順序よく入ってくるわけじゃないのかも」とイメージしていただきたい、と思うのです。
 この体験を通じて「AD/HDなんて気合いの問題だ」とか「親のしつけが悪いんだ」などと考えておられる方が一人でも、「あ、ひょっとして本当に大変な思いをしているのかも」と認識を新たにしてもらえたら嬉しいなあ、と願っています。

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